仮定法現在のメカニズム
以下 豊岡短期大学論集 No.15, 47~56(2018) 仮定法現在についての一考察 西 村 豊 からの引用を要約しました。
例文はおよび論文の要約は私の作成です。ミスがあればブログ主に責任があることを明記します。
西村さんの考察には私もとても感動しました。私も、仮定法現在は「命令文と同じ!」と指導してきましたので、理論的バックグラウンドが得られた思いです。高校での指導にぜひ活かして行きたいです。
以下論文の要約
仮定法現在
は、「動詞の原形」をとることで知られています。
これは、学校文法では以下の2つでよく見られるものでしょう。
(1)条件、譲歩、時を表す副詞節中
(2)要求提案の動詞のうしろにあるthat節中
(1)は、原形を使うのは、話し手の頭の中だけにあることで、現実になってないからですね。
原形は無色であり、現在形とも過去形でもありません。まだ現実世界にないことを原形で表しました。
大昔は 以下の a.の書き方で、動詞の原形という、時制的には無色透明の表現で、書き手の判断の中立性を示していました。
しかし、「まあわかるよね」ということで次第に b. のように現在形に置き換えられて今では現在形のみになっています。
原形が現在形に置き換えられたパターンです
a. If it (be) fine tomorrow, I will be happy.
b. If it ( is ) fine tomorrow, I will be happy.
(2)は、現在形に置き換えられず、原形のまま残ったパターンです。では、どうして、(2)では、原形のまま残ったのでしょうか。同じ that節でも、動詞が違うようです。
that節をとる動詞は「事実性の動詞 factive verb」と「事実性ではない動詞 non-factive verb」があります。I know that...のknowは事実性を表す動詞の一例です。一方で、I think that...のthinkは、話し手の判断についての話しのため、事実性ではない動詞の一例と言えます。
knowを始めたとした事実性を表す動詞のthat節内では、当然、原形の出番はないのです。一方、話し手の判断や意見、要望など、事実性ではない動詞のthat節内では原形の活躍する余地があることが分かるでしょう。
とはいえ、thinkは事実性ではない動詞 ですが、I think that...の中で、原形が使われているとはとんと聞きません。どうしてでしょうか。それはこういう理由からです。
「話し手の頭だけにあることで事実ではないこと」は「原形」で述べると言いましたが、think (supposeも)は、動詞そのもので、話し手の判断をすでに表してます。そのため、わざわざ「それが現実になっていない」=「無色透明の原形」を使う意味があまりないのです。直説法で書くのが普通になってきます。
c. I think that he ( be ) a doctor.
d. I think that he ( is ) a doctor.
上記のように誤解が生じないものについては現在形になっていったようです。
最後に、non-factive verb のうちで think, suppose 等が従える that 節では仮定法現在を使わなくなっている一方で、 order, demand, request 等の Suasive verb(勧告動詞)や important, necessary 等の形容詞(Request Adjective)が従える that 節では、現在なお仮定法現在が用いられているのはなぜでしょうか。
e. They requested that Tokyo (hold) the Olympic games.
f. It is necessary that Prime minister Suga ( tell ) us a new foreign policy.
同じ non-factive verb でも think 類と order 類ではその動詞の持つ機能が全く異なるそうです。
think 類....自分自身の内にとどまる判断を表す動詞
demand類.... は 主に自分以外に対して働く対外的な動詞です。important 類の形容詞(Request Adjective)もそれに準ずる働きをするそうです。自分以外に働きかけるということは「命令文」と同じではないでしょうか。
Quirk et al.(1985: 155) は order, demand や important 類の従属節をMandative Subjunctive(命令的仮定法)と呼んでいます。Quirk et al. は、動詞が原形をとっているのは命令文の力(imperative の法性)によると考えている ようです。つまり、現在残っている仮定法現在は「広義の命令表現」ということです。
また別の研究者であるボリンジャーさんは、「仮定法現在は埋め込まれた命令文である、というよりはむしろ、命令文こそが解き放たれた仮定法である」とまで述べているようです。
いずれにせよ、 Quirk et al. をはじめ、研究者の方々は、that 節の仮定法現在が命令文の力があるいうことでは一致しているようです。それが that 節に仮定法現在が用いられる理由であると考えられます。
e. They requested that Tokyo (hold) the Olympic games. 重要だからオリンピックやれよ!という命令文が隠れている。
f. It is necessary that Prime minister Suga ( tell ) us a new foreign policy. 重要なんだから教えろよ! という命令の力が隠れている。
最近のコメント