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2006年2月12日 (日)

「女か虎か」


 百年前にアメリカの、F・R・ストックトンが発表したリドルストーリー(結末を読者に伏せる話)「女か虎か?」をご存じでしょうか? まずはごらんください。


 昔々、ある国に野蛮な王様がいた。王様は壮大な円型闘技場を作った。命令に違反した容疑者はそこへひきだされる。闘技場の一方の端には、二つのドアがあり、容疑者はそのどちらかの扉を開けなければならない。一方の扉の奥には その国でもっとも狂暴なトラが潜んでおり、一方の扉の奥にはその国で最も美しい娘が隠れている。 虎の扉を開けた容疑者は、たちまちズタズタに引き裂かれ骨になってしまう。美女の扉を開けたものは、その瞬間に許されて彼女を花嫁に迎えることになる。
        ——それが王様のユニークな裁判のやり方だった。
        王様には目に入れても痛くないほど溺愛している一人娘がいた。 彼女は身分の卑しい若者と恋に落ち、二人は王様の目を盗んで密会を重ねていたが、とうとうバレてしまい、若者は闘技場にひきだされることになった。
        そして、裁判の当日——闘技場は超満員となった。
        観客はもちろん誰一人として、どちらの扉の奥に虎が潜んでいるのか知らされていない。
        しかし、王女はそれを知っていた。彼女は半狂乱になって、その秘密を手に入れたのである。王女は恐ろしい虎と美しい娘の両方を前もって見ることが出来た。あの残忍そうな飢えた虎が、愛する若者を頭から噛み砕く光景を想像すると王女は失神しそうになる。
        しかし一方、あの自分よりはるかに美しい娘が若者と一緒になることを想像すると嫉妬で気が狂いそうになる。血の激しさを父親から受け継いだ王女は、手に入れた秘密を若者に教えてやるべきかどうか、迷いに迷った。そして、ついに決断した。
        闘技場に引きずり出された若者が、燃えるような目を自分に向けたとき、王女は密かな手の動きでその秘密を若者に伝えたのだった。
        王女が若者に教えたのははたして美しい娘の隠れている扉だったのだろうか。
        それとも、凶暴な虎の潜んでいる扉だったのだろうか。


作者はこう語ります。

 「王女がいずれかに決めたという疑問は軽々しく考慮すべき問題ではないし、作者はこれに答えうる唯一の人間だとうぬぼれる気はない。そこで、作者は、すべての解釈を読者に委ねる。開かれた扉からは、どちらが現れたであろうか——女か、それとも虎か?」

 さて,英語教育ではよくコミュニカティブ,インフォメーションギャップという言葉を耳にします。生徒同士に異なる情報を「持たせ」ギャップを作り出し,相手のもつ情報を聞き出すことでインフォメーションギャップを作り出し,コミュニカティブな活動にしようという取り組みです。しかし,インフォメーションギャップがあればコミュニカティブかというとそうでもありません。中嶋洋一先生はこうおっしゃっています。「コミュニケーションとは意味の創出があり,そのやりとりである」と。つまりお仕着せの,くいちがった情報を与えられてもそれはコミュニカティブな活動とはほど遠いというのです。

 女か虎かは結論が伏せられていて,読者に結論がゆだねられています。私はLHRで,この教材を日本語で与え,話し合いをさせたことがあります。驚くほど熱中して話をしていましたし,一人一人の意見を発表させ,いい意見が発表されると,そこかしこで「オオ!」という感嘆の声が聴かれました。

 私は,生徒には時にはこういう教材を与えたいと思うのです。(現在のところ英語では与えていません)「女」がでてくるか「虎」がでてくるか?そしてそれはなぜか?生徒は自分の意見をいいたくなります。ただし一人一人考える時間が必要です。カナダの教員セミナーで習ったことの一つに,

 Think  -  Pair - Share というものがあります。

 個人の意見を考える時間を与え,それから,ペアで意見を共有する。最後にグループやクラスで共有するという考えのものでした。カナダのESLではペアワーク,グループワークが非常に多く行われていましたが,この考えに基づいて行われておりました。

 話がそれてしまいました。 

 生徒の「伝えたい!話したい!」という気持ちを引き出す「しかけ」をすること。やるまではおっくうだったけど,やってみたら充実感があったというようなしかけをできるだけしていくことこそがコミュニカティブな活動,教育なのかなと思いました。

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